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「Roots Project Vol.3~最先端ITビジネスリーダーと議論するワークセッション~」イベントレポート

 6月1日、渋谷のAbema Towersで第3回目となるRoots Projectが行われました。今回のテーマは「ITテクノロジーで社会をアップデート」。eスポーツ、プログラミング市場といった先端テクノロジー事業でそれぞれ活躍される、二人のスピーカーにお越しいただきました。

 社会人の方やIT事業に関わっている方など、20人ほどが集まった本イベントは発起人の李成一(り・そんいる)によるイントロに始まり、恒例のアイスブレイクを行いました。最近うれしかったのは給料日で久しぶりに贅沢ができたこと!という20代男性は、自身の働く業界とITは決して切り離せないと考え、勉強したいと思いイベント参加に至ったそうです。

飛躍的成長が進むeスポーツ業界

文晟新さんのeスポーツ事業に関するプレゼントーク

 アイスブレイクで場の雰囲気もほぐれたところで、二人のスピーカーによるプレゼントークへと進みます。まず一人目に、株式会社CyberEで代表取締役社長を務められる文晟新(むん・そんしん)さんが、現在手掛けているeスポーツ事業について話してくださりました。eスポーツとはElectronic sportsの略称。ゲームを競技のようにとらえたもので、市場規模は一千億円程度、プレイヤー人口は今や世界で推定2億人以上にも上るそうです。

 そんな中、日本国内でeスポーツはどれだけ盛り上がっているのか。2017年では市場規模が3億7千万円なのに対して、翌年の2018年には前年比の13倍と急激に成長しており、2022年には約100億円にまで拡大するとみられています。現在の市場規模では7割以上がスポンサーではありますが、今後はチケットやグッズ販売なども増えてくることからも、eスポーツがビジネスとして成り立つための市場作りに晟新さんは注力しているとのことです。

「観戦文化を根付かせること」

「競技としての楽しさ」を体感させることが、観戦文化醸成につながる

 eスポーツは「ファンあってこそのビジネス」であると話す晟新さん。現在eスポーツを観ている多くは若年層であり、そこに対するアプローチの手段として様々な企業がeスポーツに着目しています。なかでも日本テレビや吉本興業などの大手企業の他、読売ジャイアンツや横浜F・マリノスなどといったクラブはプロゲーミングチームとしてeスポーツに参入!これまでではあり得なかった「読売ジャイアンツvs横浜F・マリノス」という夢のような対決も、eスポーツでは行われています。

 一方、課題として「観戦文化を根付かせること」を挙げ、そのために必要なのは1つ目に“一大会の参加者を増やすこと”、2つ目に“ドラマを作ること”と言います。可能性に満ちあふれたeスポーツ業界の魅力を存分に語っていただいたところで、晟新さんのプレゼントークは終了しました。

各国で取り組みが進むプログラミング教育

 続いては、キラメックス株式会社の代表取締役副社長を務められる金麗雄(きむ・りょうん)さんのプレゼントークです。麗雄さんは冒頭で、プログラミング教育とeスポーツ事業という一見全く異なる分野でも、「テクノロジーの力を使って、既存の業界や産業をアップデートしていく」という共通点を挙げました。自身が取り組まれるプログラミング教育においては、エストニアやイギリス、ロシアやインドなどが既に数年前からSTEM(Science Technology Engineering Mathematics)教育を小学校や中学校で必修化するという先進的な取り組みも行われています(日本は2020年より小学校から必修化)。

拡大する市場 不足する人材

 日本のみならず世界でプログラミングが注目される要因を、麗雄さんは「IT人材が枯渇しているため」と言います。市場規模が右肩上がりに拡大していく中、IT人材は2020年で40万人、2030年には80万人も不足すると予測されており、多くの企業がエンジニアを求めているにも関わらず、供給できる体制が整っていない現状があります。もう一つの背景には、社会人でも一生涯学び続ける必要があるとして「リカレント教育」というワードを挙げました。

変化のスピードが速まっている今、社会人でも学ぶことの重要性は高まっている

 そうした今、麗雄さんは「次世代の教育カンパニー」というビジョンを掲げ、プログラミング教育事業に取り組んでいます。自分のペースで勉強しながら適切なタイミングでサポートを受けられるアクティブe-Learningという新たな学習方法をアップデートし、次代のベネッセのようなポジションを目指す。まだまだ新しいことができる余地がこの先多くある教育業界を、テクノロジーでアップデートして行く。そのような言葉を残して、麗雄さんのプレゼントークは以上となりました。

グループディスカッション

スピーカーへ質問を投げかける参加者の方々

 休憩を挟んだ後は、2つのグループに分かれてスピーカーも交えたグループディスカッションが行われました。「(eスポーツが)青少年の成長において与えるメリットやデメリットは?」「競合他社はどれぐらいいるのか?」「プログラミングを始めるにあたってこれだけは知っておいた方がいいことは?」「AI技術が発展すれば、コーディングもAIになっていくのか?」…等々、質問の幅は初歩的なものから専門的なものまで多岐にわたり、どちらのグループもスピーカーへ絶えず質問が飛んでいました。

「在日コリアンは強み?」

 盛り上がったディスカッションも束の間、いよいよイベントは終盤に。最後はイベントの名称にもある「ルーツ」というパーソナルな部分について、トークセッション形式でスピーカーに話していただきました。まずは、「在日コリアンは強みであるか?」ということ。麗雄さんは、インターネットの世界はフェアなことから在日コリアンであることに良いも悪いも無く、「自身のルーツについてはしっかり認識した上で」フラットに考える人が増えていけば良いのではないかと話されました。

 晟新さんは共通の認識を持ちながらも、キャラとして自分が注目してもらえる存在と考え、キャリアにおいて在日コリアンであることをフル活用してきたと言います。なぜルーツを自身のキャラとしてポジティブに話せるのか。その強さの源泉を、晟新さんはビジネスで結果を出すというゴールから逆算したときに、在日コリアンであることを活かすべきというのが最適解であるだと考えたそうです。

キャリアの選択

 次に、キャリアの選択について。起業も含めたキャリアアップやキャリアチェンジの際に、どのような考えを持っていたのかお聞きしました。麗雄さんは元々起業志向があったことから、2~3年でいかに濃い経験ができるか、自分の方向性にプラスとなる経験ができるかを軸に考え、最初の会社を選んだそうです。

 晟新さんはキャリア選択をする上で、「市場が伸びているか」「結果に対してフラットな環境であるか」という二つの考えがあったと言います。特に前者の理由としては、市場が伸びている分ポジションも増えやすくチャンスが多く眠っていることを挙げました。一回目の転職でGREEに入ったのも、ちょうど同時期にゲーム業界がガラケーからスマートフォンへの転換期を迎えており、「これは確実に来るな」と感じたため。現職に転職した際も、スマートフォンが多く普及されている現代では広告の存在は無視できるものではなく、なおかつ新しいことにチャレンジさせてくれるという観点から、その決断をしたそうです。

活躍できる人材像

 伸びている市場において、活躍できる人材像は一体どんな人か。晟新さんは「変化に対応できる人」が活躍できるとシンプルに述べました。正解がない業界では「こうしなさい」と言われることも無く、体制の変化も早いことから、自身の考えを持ちながらも一つのことに固執せず、結果が出ない場合に素早く対応できる人が活躍できると言います。

 自分自身を「特徴のない人間だった」と振り返る晟新さん。そのため、とにかく周りよりも多く動いてその分失敗もしながら、それでも結果を残したいという強い気持ちを持っていました。今も有名な大学から優秀な人材が多く入ってくる中で、彼らに勝つにはチャレンジを続け、彼らよりもたくさん動いてたくさん失敗すること。そのような気持ちが今のキャリアにつながっていると晟新さんは語ります。

メッセージ

 最後に、日本社会で活躍する同じ在日コリアンの“仲間”に向けて、メッセージをいただきました。麗雄さんは「(プロジェクトが)今回で3回目となるが、主催と参加者で分かれるよりは一緒に何かできればいいなと思っている。ただ、別にがっつりコミットしてほしいというわけでもない。このようなプロジェクトは長くやることがとても重要で、誰かに負担がかかって続けられないのがありがちなパターン。なので、どんなことでも一緒にできることがあれば」と“Roots Project”を続けることの重要性を話しました。

 晟新さんは、「在日コリアンのあり方は変化してきていると思っていて、1世や2世のときの在日と、3世や4世のときの在日は全然違うと思う。そのようなあり方をこういった場で共有できればいいなと思うし、そのような色んな人が集まって情報交換できるコミュニティは強い。自分は朝鮮高校、朝鮮大学校を経てきたが、世の中には違う環境を過ごしてきた在日コリアンも多くいるので、そのような人たちも集まってコミュニティを形成し、より良いディスカッションができる場を作っていけたらと思う」と、このようなコミュニティがある意義の強さを話してくださりました。

 素晴らしいメッセージをいただいた後は、イベントのクロージングとして複数人でグループになり感想共有の時間に。最後は参加者やスピーカー含めた全員で集合写真を撮り、イベントは終了となりました。イベント後のアンケートでは、「先端テックを今まさにビジネスとして事業化されている方々の話を聞けて、勉強になった」「同じ在日コリアンとして活躍されていて刺激になる」「こうした参加型は社会人にとって人脈を広げる機会となるので、有意義だと思う」など、多くの声が寄せられました。

イベント終了後、文晟新さんインタビュー

―イベントを終えてみての感想をお聞かせください。


晟新「社外の人たちの意見はなかなか聞けないので、eスポーツがどう思われていて、どういうことが注目されているかを聞けてとても勉強になりました。特にはグループディスカッションのときにそれを感じて、例えばeスポーツに対して悪い印象を持っていた方もいたことや、こういうことがあればもっとeスポーツが流行るのにとか。逆にこちらのほうが勉強になったので、とても良かったです」

―今回のそうした意見を、今後の事業に活かすというのも…。


晟新「もちろんです。イベントを運営するにあたり、もう少しこういう風にやってもらえるとわかりやすいのにとか、実際にリアルなフィードバックもいただけたので、すぐにでも活かせそうだと思いました」

― ありがとうございました!

スピーカーの金麗雄さん、文晟新さん、そしてご参加いただいた皆さま、Zoomで視聴された皆さま、ありがとうございました!

次回は9/29(日)を予定しています。
ぜひご参加ください!

文責:姜 亨起( 大東文化大学  4年)

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文晟新さん

金麗雄さん